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愛情だけじゃ食べていけない

 
3年ほど前に、ある友人が恋愛というコトバはおかしい、と私に云った。
恋と愛は全く違うものなのにくっつけて同じ意味を持たせているのは変だ、と。 今になって思うのだが、当時彼女にはおそらく誰か好きな人がいて、 恋か愛、あるいはその両方について論じたかったのだろう。
だが、生憎とその頃の私は自分のことで手一杯で恋愛などというものには全く関心が無かったから、適当な台詞を返してその話はすぐ途切れてしまった。
後で彼女は私が真面目に取り合わなかったことを散々ぼやいたが、
とにかくそういった色恋沙汰には全く興味が無かったのだから仕方がない。

さてこのような書き出しで始まると、おお、桐島もとうとう人並みに恋愛論なんぞをぶちかますのか! と期待されたアナタ、残念。
もっと現実的なもの――さすがにこの年になるとよく聞かれる《理想のダンナ像》なんかを少々お届けしましょう。


     *

ダンナは、とにかく手がかからない人間に尽きる。

 ――何だい、その手がかからないって云うのは。

だから食べ物の好き嫌いとかがあまりなくて、適当に手を抜いたおかずでも文句を云わずに黙々と食べてくれる御仁だ。
でね、ワタシがいない時は適当にカップラーメンでも作って食べておいてくれる人だな。

 ――君は自分が楽をしたいだけじゃないか。

(胸を張って)そうだっ! 世界中、津々浦々に数多いる主婦の大半は、 毎日のおかずを考えるのが一番ツライんだぞッ!

 ――威張って云うことじゃあないだろう。だいたいそんなデータ、どこ
    からひっぱりだしてきたんだい。本当に世界の主婦に聞いたん
    だろうね。

1998年、桐島烏有調べだ。ちなみに対象は宝塚市在住の兼業主婦のみなさん。人数は十数人くらい。

 ――そんなのでよく世界の主婦がどうこう云えるね君は。
    ペテンもいいところだ。

いいのだ、現在無職で銭コがなくて行動範囲が限定されている私にとって世界とは、宝塚市(の一部)だけなのだから、間違ってはいない。
故に詐欺でもペテンでもない。
主婦のみなさんは毎日悩んでいるのだぞッ、家族さえ文句を云わなければ毎日カレーライスでいいのにって!

 ――それは……違うだろう。君、毎日カレーでイヤじゃないのかい。

3日くらいならイヤじゃないぞ……って、冗談も解からんのかアンタは。
ただし、献立を考えるのが面倒くさいのは確かだ。
今コレを読んでいる主婦の皆さんは、今頷いているハズだ。
ねぇ奥さんッ、あなただってそうでしょう!


 ――・・・・・・君はみのもんたか・・・・・・で、君はおかずに何の文句も
    云わない柔順な男がいいのかい。

否、柔順、ではいけないのだ。時々なら文句を云っても構わない。
「もうちょっと味が薄いほうがええなあ」とか、遠慮がちに云う。これが理想。 「こんなもん食えるかッ」とか云ってちゃぶ台をひっくり返すような愚かなことは絶対にしない人だ。

 ――ちゃぶ台をひっくり返す人はあまりいないと思うけれどね。
    じゃあ料理が好きなダンナはどうだい。最近多いらしいじゃない
    か、そういう男は。

それは嫌。私にも立場というものがある。
子供に「お母さんのごはんよりお父さんの作るやつがいい」とか云われたら立つ瀬が無い。
特に味に煩いダンナは最悪。味オンチ歓迎。ダンナが厨房に入るのは私が寝込んだ時くらいで、子供が嫌がって食べないような、よく解からない味のついたアヤしい野菜炒めなんか作ってくれたら良いな。

 ――なかなか細かい注文がつくね。

一見かかあ天下、その実ワタシはダンナの手のひらの上で好き勝手に暴れる孫悟空的なヨメさん。 だからたまにはお釈迦様も怒ればいいのだ。

 ――君は、神も仏も信じないんじゃないのかい。

そうだ。ワタシの神はワタシだ。
ただし、その神を凌駕する力を持った者が1人だけ存在してくれると助かるのだ。 なにしろワタシの神は・・・・・・時々、結構頼りないから。

 ――その頼りない神様を適当に御してくれるのが理想のダンナか
    い。

うむ。頑固で天邪鬼でヘンコツなワタシを論破できるだけの人間でないと困る。すなわち恐ろしい程の思考力を持った人間。
「1云えば10の言葉が返ってくる」ような、ただの煩い理屈屋ではなくて、0.5くらいの言葉でワタシを黙らせることが出来る賢い御仁でないと。 学歴なんぞはどうでもいいが、ワタシより阿呆で言葉数が多いだけの男はダメなのだ。 普段は黙って、ここぞという時に鮮やかに、雄弁詭弁をぶちまけてくれれば良い。

 ――云っていいかい、桐島。そういうのを高望みと云うんだよ。
   そういった出物はたいてい売れてしまっている。
   つまり君は、妥協しないというなら一生独身でいるしかないね。

それも良し。居なけりゃ居ないで仕様がない。
結婚っていうのはママゴトじゃなくて特定の人と一生連れ添って生活していくことだから――つまり、ワタシの人生丸ごと賭けることになるわけよね。
「〇〇さんに3000点」とかいうんじゃなくて、「〇〇さんに全部」じゃないとダメだから。向こうもそうだけどさ。
そうすると絶対譲れない部分っていうのはあるでしょ。
姑さんがいるとかいないとか、同居だとか別居だとか、持ち家や車があるとかないとか、背が高かろうが低かろうがそんなことはどうでも良いけど、 最低条件としてワタシが尊敬出来る人間じゃないと嫌なわけ。これは譲れないっすよ。 ただ好きなだけでは自分の人生預ける気にはならないからね。
極端に云うと、部分的にでも崇拝することが出来るくらいの相手でないと困る。何しろワタシ、ナルシーだから。

まとめると、価値観がワタシと酷似していて、ワタシよりはスケールの大きい人間というところかな。 ああ、それとね。とりあえず収入は食べるのに困らないだけあればいいです。
愛だけじゃ、食べていけないしね。
まあ、少し贅沢を云えば、娯楽費として本を買うくらいのゆとりがあると良いんだけど?

 ――勝手にしたまえ。いき遅れて後悔しても、僕は知らないよ。

おう、勝手にする。




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